ステッピングモータは何をするもの?

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2025年9月26日

 

ステッピングモータは、細かな角度で断続的にモータ軸を回す小型モータです。

この記事では、モータの種類の選定でお悩みの方に、ステッピングモータが何をするものかを解説します。またモータの専門家でなくても理解できるように、ステッピングモータの動作原理、どんな場面や用途で使うべきか、他の種類のモータに比べたメリットや制約といった設計判断のヒントも紹介します。

ステッピングモータは何をするもの?その役割は?

ステッピングモータは、物体を正確な位置に移動と停止をさせそれを繰り返します。また比較的低速で物体を回転・移動させたり、物体を停止した状態に保持したりします。回転だけでなく、リードスクリューなどと組み合わせて使うことで、直線運動や開閉なども行えます。具体的には次の動きを実現します。

ステッピングモータを使って実現する動きの例

  • 3Dプリンタなどのノズルやインクヘッドの回転や移動
  • コピー紙や紙幣など紙の送りや仕分けなどでのローラの回転
  • ベルトコンベアの駆動ローラの回転
  • 工作機械の工具やノズル、テーブルの回転や移動
  • 劇場・スタジアム照明の演出でのライトやプロジェクターの首振り
  • 注射器型点滴装置(シリンジポンプ)のシリンジ押し出し
  • ロボットハンドなどのアーム機構の屈伸や旋回
  • エアコンなどのルーバの開閉や風向の調整
  • 人工衛星の太陽光電池パネルの展開や太陽追尾での方向調整
  • バルブの弁体の動作
  • 監視カメラの首振り
  • 人工衛星のアンテナなど送受信部の自動追尾での方向調整
  • 半導体製造装置や分析装置の試料ステージの回転や移動

 

ステッピングモータ以外の種類のモータでも同様の動きをさせることは可能ですが、ステッピングモータは次の点に特長があり、簡単にかつ低コストで制御システムを組むことができます。

  • オープンループの位置制御が可能
  • 位置制御を容易に実現できる

ASPINAのステッピングモータの外観 ステッピングモータ外観の例

ステッピングモータとは

他の種類のモータのように連続的に回転するのとは異なり、ステッピングモータは少しの角度を一歩一歩段階的に回転します。「ステップ」という名前の由来でもある動きです。例えば2相ハイブリッド型ステッピングモータは、1.8度という細かな角度ごとに回転・停止することができ、種類によっては0.9度ごとに回転・停止させることもできます。ドライバの励磁方法によってはさらに細かい角度で回転させることも可能です。

ステッピングモータは、コントローラから出力されるパルスごとに、その角度分だけ回転します。パルスが連続して印加されるとステッピングモータはその間連続して回転しますが、パルスが印加されなくなると、ステッピングモータはそこで停止し位置を保持します。

ステッピングモータの回転速度や回転角度は、パルスの周波数や数で簡単に変えられます。周波数が低くなると回転速度が遅くなり、またパルスの数が多いと回転角度が大きくなります。

ハイブリッド型のステッピングモータでは、モータの回転子には50歯または100歯の小歯が並んでいます。各小歯は永久磁石により帯磁して、固定子の磁極による吸引により回転子側の小歯が吸引され移動します。パルスが印加されるごとに固定子の磁極を変化させることで、回転子が回転したり停止したりします。

ステッピングモータの基本構造を表した図 ブラケット、固定子、回転子、ベアリングからなる ステッピングモータの基本構造

ステッピングモータの回転子の構造の図 ハイブリッド型の例 ステッピングモータ回転子の構造(ハイブリッド型ステッピングモータの例)

ステッピングモータの回転子の構造の図 ハイブリッド型の例 ステッピングモータ固定子の構造(ハイブリッド型ステッピングモータの例)

ステッピングモータの種類

ステッピングモータはいくつかの切り口で分類することができますが、ここでは構造と、コイルへの電流の流し方による分類を記します。欲しいトルクや大きさ、コストなどによって選ぶことになります。

構造による分類

PM型(Permanent Magnet Type:永久磁石型)
回転子に永久磁石を使っています。低速で高いトルクを得られます。ただし、ステップ角を細かく設定することはできません。
VR型(Variable Reluctance Type:バリアブルリラクタンス型)
回転子に歯車状の鉄心を使っています。1.8度などステップ角を細かく設定することが可能です。ただし、電流を流していないときのトルクはありません。
HB型(Hybrid Type:ハイブリッド型)
回転子に永久磁石と歯車状の鉄心を使っています。PM型とVR型の長所を併せ持ち、高精度の位置決めと高い回転トルクや保持トルクを得られるため、さまざまな用途に使われています。なお、ASPINAが開発・製造しているステッピングモータはすべてHB型です。

コイルへの電流の流し方による分類

ユニポーラ(単極性)型
1つのコイルに対して一定方向へのみ電流を流すタイプです。バイポーラ型に比べ、制御回路がシンプルなため安価ですがトルクが得られません。
バイポーラ(双極性)型
1つのコイルに対して双方向に電流を流すタイプです。ユニポーラ型に比べて制御回路は複雑になりますが、高トルクが得られます。

なぜ選ばれるのか ステッピングモータの主な特長

ステッピングモータは、主に次のような特長があります。

摺動部が少なく長寿命

ステッピングモータはギアなど摩擦や摩耗により劣化する部品が少なく、結果として比較的長期間使用することができます。

位置のフィードバックが不要で、パルスの入力だけで回転や位置を制御

ステッピングモータは他のモータに比べ、位置制御の仕組みに特長があります。回転子の位置や動きを検知する電子部品が不要で、またパルス信号の入力だけで回転や位置の制御ができます。このため位置制御のプログラムの作成も比較的容易です。このようにステッピングモータを使うことで、他の種類のモータに比べて簡単にかつ安価に制御システムを組むことができます。

低速かつ高トルクの回転が得意

ステッピングモータは低速の回転が可能で、かつ低速時でも高トルクが得られます。他の種類のモータは低速時に高トルクを得るためにギアを使いますが、ステッピングモータは同等のトルクを得るためのギアを必要としないため、小型でシンプルな構成とすることができます。

高精度

ステッピングモータは起動時や停止時の応答性に優れます。また角度誤差が小さく、誤差の累積も起こりません。

停止時の自己保持力に優れる

ステッピングモータは無励磁でも、回転子と固定子の細かな歯同士が磁力で引き合った状態で自己保持することができます。

 

これらに似た特長を持つモータに、ACサーボモータがあります。ACサーボモータは高分解能エンコーダなど位置検出器を備え、また俊敏な動きや安定した速度で回転できるように回転子のイナーシャ(動きにくさ 慣性)が設計されています。そして回転子の位置に応じた正弦波状の電流で駆動します。低速から高速まで広い速度域で安定したトルクを発生する、停止中に位置ずれを起こしても正しい位置に戻る、といったステッピングモータより優れた点があります。しかし高分解能エンコーダや高度な制御を行う駆動装置が必要なためステッピングモータに比べて高価で、またACサーボモータを使った制御システムも複雑になり高コストになります。

どんなときに使うのか ステッピングモータの用途

ステッピングモータは大まかに、次のようなことが求められる場合に使用することがおすすめです。

  • 位置決めが重要
  • 速度よりも精度が求められる
  • コストと制御のバランスを取りたい

以下に、ステッピングモータがどのような製品に使われているかを列記します。しかしこれら以外の用途でもステッピングモータが活用できる可能性があります。

家電・住宅設備

エアコン

ルーバの自動開閉や風向調整

配管

バルブの開閉

窓シャッター

自動開閉

コピー機、プリンタ

紙の送りや仕分け トナードラムの回転

劇場・スタジアム照明

ライトやプロジェクターの首振り

商用機器

自動販売機

カップの輸送 紙幣の紙送り

ATM

トレイエレベータの駆動 明細票や紙幣の紙送りや仕分け

監視カメラ

カメラの首振り

工業分野

ベルトコンベア

ローラの回転

3Dプリンタ

ノズルの移動

ロボットハンド

アームの屈伸や旋回

検査装置

XYテーブルの移動

工作機械

ノズルや工具の位置決め 材料の送り

半導体製造装置

ステージやアームによるワークの移動と位置決め ツールやプローブの移動と位置決め

医療機器

人工透析装置

輸液ポンプのチューブの蠕動

注射器型点滴装置(シリンジポンプ)

シリンジの押し出し

研究分野

分析装置

試料ステージの移動、回転、傾斜 液体分注 光学部品の角度と位置の調整 ポンプやバルブの制御 検出器のスキャン

宇宙分野

ジンバル

ポインティング機構の自動追尾

太陽光電池パネル

展開や太陽追尾

用途別ステッピングモータ製品の例

どのような用途で当社ステッピングモータが使われるかの例を、製品シリーズ別に示したのが次の表です。

用途         シリーズ機種名
SST28D SST35D SST36C SST42C STA-42D STA-56D SST60D SST86D
3Dプリンタなどのノズルやインクヘッド Yes
コピー紙や紙幣など紙の送りや仕分け Yes Yes
ベルトコンベアの駆動ローラ Yes Yes Yes Yes Yes
工作機械の工具やノズル、テーブル Yes Yes Yes Yes Yes Yes
劇場・スタジアム照明の演出でのライトやプロジェクター Yes Yes Yes
注射器型点滴装置(シリンジポンプ) Yes Yes Yes Yes Yes
ロボットハンドなどのアーム機構 Yes Yes Yes
エアコンなどのルーバ Yes Yes
人工衛星の太陽光電池パネル Yes Yes Yes Yes
バルブの弁体 Yes Yes Yes Yes
監視カメラの首振り Yes Yes Yes
アンテナなど人工衛星の送受信部 Yes Yes Yes
半導体製造装置や分析装置の試料ステージ Yes Yes Yes

モータカタログダウンロード

ASPINAでは、環境条件などで異なる要求仕様に対応した製品を開発、製造しています。

制約や留意点

ステッピングモータは他の種類のモータに比べ、想定外の負荷変動時に正確な位置を見失うことがあります。これはセンサーやエンコーダによる位置のフィードバックがないためです。負荷を動かすための必要トルクがステッピングモータのトルクを上回ると回転子が脱調し、駆動パターンに比べて遅れが発生したり、回転が完全に停止したりします。

またステッピングモータでは、各ステップ動作の際に減衰振動が発生し、それが脈動となって現れます。この脈動が繰り返し断続的に発生することで、振動や振動によるトルクの低減、騒音が起こります。このような現象は特に、低速回転時およびモータの共振ポイントで起こりやすいです。

ステッピングモータのデメリットを回避・抑制する技術も

ステッピングモータのメリットを最大限生かしつつ、デメリットを回避・抑える技術もあります。例えばエンコーダ付きのステッピングモータであれば、運転状態を正確に把握することが可能です。ステッピングモータの特長である高トルクの回転、運動、停止と、正確な運転制御を行えます。またダンパーを追加することで振動を抑えることができますし、マイクロステップ駆動技術を利用して振動を低減したステッピングモータもあります。

ステッピングモータのデメリットが気になる、あるいは実際に問題が起こっていて困っている場合には、モータを開発しているメーカーに相談しましょう。

ステッピングモータでお客様の課題を解決

ASPINAのステッピングモータは、モータ単体だけでなく、駆動・制御系から機構設計までを含んだシステム部品としてもご提供しています。試作から量産、アフターサポートまで一貫して対応しています。

さまざまな業界、用途、お客様製品に求められる機能や性能、お客様の生産体制に合わせて、最適なご提案をいたします。

具体的なご要望や要求仕様のあるお客様だけでなく、次のようなお困りごとの段階でもお声掛けをいただき、開発から量産にまで対応しています。ぜひ、お気軽にご相談ください。

「どんなモータが必要か、分からない」

  • 「新製品の開発が初期段階であり、具体的な仕様や設計図まで作りこんでいない。しかし開発を今後スピーディに進めるためモータについてのアドバイスが欲しい」
  • 「モータに通じた専門家が社内におらず、理想の動きを実現するために必要なモータの知見がない」

「モータとその周辺部分をまとめて設計するのが難しい」

  • 「当社のリソースは商品企画やコア技術の開発・設計に投入したい。それ以外のモータとその周辺部分の設計・開発をまとめて行ってくれる会社がないか」
  • 「モータを変更すると他の機構部品の設計も変更せねばならず、工数と時間がかかりそう」

「用途に合った既製品が見つからない」

  • 「自社製品に合ったモータのカスタム品が欲しいが、取り引きしているモータメーカーに断られた」
  • 「モータをきめ細かく制御したいが、既製品モータでは対応できないので、あきらめるしかないのか」

ぜひ、お気軽にご相談ください。

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