モータ技術が生んだ、かつてない把持 - 電動ロボットハンド

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前例のない電動ロボットハンドの開発が、さまざまな業界や産業分野の人手不足を解消

「私たちのモーションコントロール技術が、社会課題解決にも貢献できるかもしれない」。ALビジネスユニット(Automating Life & Work Business Unit)の製品開発会議に出席していたメンバーは、みなそう感じていました。

社会課題とは「少子高齢化による人手不足の解決」であり、その課題解決に、一般的な産業用ロボットに加え、人間と共に作業を行う「協働ロボット」が活用できると、世界中から注目されています。国際ロボット連盟(IFR:International Federation of Robotics)の2019年版年次報告書でも、2018年における協働ロボットの出荷台数は前年比23%増の1万4000台近くになるなど、世界的に協働ロボット需要の伸びが期待されています。

協働ロボットが不足する労働力を補うには、これまで人間にしかできなかった作業も行う必要がありますが、異なる大きさ、形状、固さの対象物を掴む作業が課題でした。これを解決するためには、様々な対象物に合わせて掴めるロボットハンドが求められます。

また一方で、すでに製造工場などでは、流れ作業の中で毎回決められた形状の部品を把持するロボットハンドが活用されています。大量生産の工程で使われるロボットならば、それだけで十分でしょう。ですが、すでに製造方式は多様化し、一つのラインで異なる種類のものを製造する、少量多品種生産に移行しています。さらに、製造業以外の分野でもロボット化が進んでいけば、1体のロボットであらゆるものが把持できるロボットハンドのニーズが拡大するでしょう。

そのような中、「私たちは多様なものが把持できるロボットハンドの開発に、モータメーカーとして蓄積してきた経験やノウハウを生かせると考えました」と、ALビジネスユニット RT開発課課長の佐々木は「あらゆるものが掴める電動ロボットハンド」という、前例のない製品開発への挑戦を決断した経緯を振り返ります。

オールインワンで設計が可能なモータメーカーが広げる、ロボットの可能性

「あらゆるものを把持する」という要件を考えた時、私たちは、異なる大きさの対象物に対応できる大きなストロークと、丸い対象物でも掴みやすい3爪という形状、さらにどの方向からでも対象物を掴みやすくするために爪を回転させる構造が必要と考えました。

しかし、実際にものを掴むハンドの部分とそれを動かすモータを個別に設計して、後から合体させる手法では、小型のままでこれらの要件を満たすロボットハンドは開発できません。「ASPINAならば、ハンドとモータ、制御ユニットまでをオールインワンで設計できるので、余分な構造や空間を省き、より小型化を目指せるのです」と、ALビジネスユニット 副ビジネスユニット長の永井はASPINAにしかできないものづくりの力を生かした挑戦への意気込みを語ります。

さらに、モータから制御ユニットまですべての構造設計を行っているので、ロボットハンド自体に新たな付加価値を搭載することも可能です。そこで、ASPINAがロボットハンドに付加したのが「中空構造」です。中空構造とは、電動ロボットハンドの後部から前部までを貫通させる穴を設ける構造です。

後部から前部までを貫通させる穴を設けた「中空構造」

ロボットハンドを中空構造にすることで、対象物を把持した状態で追加作業が組み合わせられ、自動化の幅が広がります。例えば、穴を通してカメラを取り付けておけば、ロボットハンドが実際にものを把持する様子がリアルタイムに確認できます。対象物のQRコードを読み取って、処理方法を瞬時に選ぶといった使い方も可能になります。他にも、エアーアタッチメントで汚れを吹き飛ばす、吸着パッドと組み合わせて確実に対象物を把持するなどの使い方も考えられます。

ユーザーニーズに迅速に対応できる開発体制

こうして、「中空構造を持ち、あらゆるものが把持できる軽量小型の電動ロボットハンド」という開発コンセプトが固まりました。ところが、実際に設計を進めるにあたっては大きな壁が立ちはだかりました。その壁とは、軽量小型を追求するにあたり、モータの回転軸と爪を連結する機構を実現する方法です。

この機構の開発に関しては、自社で一からの開発ではコストと時間がかかってしまい、お客様の予算や市場ニーズに合わせた効率的でタイムリーな製品開発にはなりません。開発チームが辿り着いた答えは、すでに高精度な立体カム構造の特許を有していた企業との「協業」で、新たな立体カム機構を開発することでした。

実際に新たな立体カム機構の開発で協働することになった企業とは、すでにASPINA内の別の部署が協業を進めていました。その部署の担当者との普段のやり取りの中で、先方の企業が高精度なカムのアイデアを持っているという情報を入手し、ALビジネスユニットとも「協業」することになったのです。このようにASPINAの製品開発では、直接その製品に関わる部署以外の社員からも、情報を得たり意見を取り入れたりしています。

日頃から、職務や部門にこだわらず情報収集をするという文化は、新製品を企画する際や、製品の改善にも生かされています。「ASPINAでは、開発する製品ごとに各部門のメンバーが集められ、新製品の仕様を決める市場調査を行います。その情報収集のために、通常は社内で設計や生産技術に関わるエンジニアも、積極的に外出して展示会やセミナーなどに参加しています。これによって、お客様が抱える技術面での課題やユーザー目線での性能改善のポイントも、直接エンジニアが知ることができるのです」と、佐々木は語ります。

ロボットの展示会では、対象物の小ささや軟らかさなどが壁になって自動化が進んでいなかった産業分野の来場者からも、エンジニアが直接技術課題を聞き出せました。例えば、現在の電動ロボットハンドには、展示会で担当者が聞いた「いろいろなものを把持するために、爪が交換できればいい」という意見が取り入れられています。今後は、さらに電動ロボットハンドの活用の幅を広げるために、爪の本数が異なる製品の開発も計画しています。

永井も「そうやってお客様と直接会話する中で市場のニーズを汲み取りながら、製品開発を進めています。他のメーカーよりも、エンジニアが頻繁にお客様のところに出向き、打ち合わせや商談にも参加する機会が多いと思います」と、ASPINAが持つ市場調査や製品開発体制の強みを語ります。

そして、ASPINAではお客様が本当に必要としている製品をいち早く市場にお届けするために、時には他社の技術も取り込んで製品開発を進めているのです。

ラインナップも充実させて、「あらゆるものを把持」に挑戦

電動ロボットハンドであらゆるものが把持できるようになれば、どのようなメリットが生まれるのでしょうか。例えば、ロボットメーカーがロボットを開発する際、顧客ごとに把持する対象物が違うので、ロボットハンドも案件に合わせて専用設計することになります。その工程がなければ、ロボットの価格を抑え、納期も短縮できるでしょう。また、ロボットを利用するユーザーにとっても、作業の途中で対象物が変わるたびにハンドを交換する必要がなくなるので、作業の段取りがシンプルになり、ツールチェンジャーを使用するコストも削減できます。

ASPINAでは今後、電動ロボットハンドのさらなる軽量コンパクト化を進めるとともに、2爪仕様などのラインナップの追加、用途に合わせた爪の交換機能なども検討します。また、現時点では数100グラムまでの対象物を把持できますが、電動ロボットハンドに使われるモータのパワーを上げることで1キロから2キロまでのものが把持できれば、さらに需要が拡大します。まだ自動化が進んでいない食品、医療品、化粧品という「三品市場」などといった産業分野でも、電動ロボットハンドの新規市場開拓が見込まれると考えています。

今後も全社一丸となった製品開発体制によって、モーションコントロール技術が活用できる分野を調査し、積み重ねられたモータ技術を生かして、お客様のニーズに合わせたカスタマイズ製品を提供させていただきます。