逆転の発想から生まれた製品 - ホイールユニット

  • 自動化

  • 搬送ロボット

既存のホイールユニットの概念を覆す挑戦

「こんなに薄いホイールユニットは見たことがない!」
とある展示会に出展していた当社のブースで、お客様の驚きの声が私たちの耳に届きました。

「我が社のアクチュエータをアシスト台車やアシストカートのホイールに使いたいという要望は、常々お客様からいただいていました。モータと減速機が一体になっていて、薄型で小型というところがホイールユニットに進化をもたらすと思われたのです」。2017年からスタートしたホイールユニット開発の経緯について、当社の開発担当者はそう語ります。そのような要望を受け当社は、薄型・軽量の減速機付アクチュエータを発展させ、タイヤ内にモータと減速機を組み込むことでタイヤ自身が駆動する、インホイールモータを開発しました。

このインホイールモータを台車に使用すれば、小さいサイズでありながら、台車やカートの足回りの動きを確実にアシストすることが可能になります。また、モータの飛び出しがなくなった台車下のスペースにバッテリーや制御回路を取り付けることで、台車上に置く部品が減り台車全体の高さを低くできます。そうすることで低重心の安定した走行も実現でき、転倒などの事故の可能性も下げることができるからです。

ホイールユニットを使用した台車で低重心の安定した走行を実現

逆転の発想のインホイールモータ

インホイールモータの開発は、まずモータと減速機の根本的な構造を作ることから始まりました。台車のタイヤにアシスト用のモータを取り付ける際、遊星減速機を使う場合は、複数の歯車から構成される遊星歯車の中心に軸を設けてタイヤを回転させるのが一般的です。台車の下には空いた空間があるのでモータと減速機を取り付けることはできますが、モータと減速機の長さの分だけタイヤから大きく飛び出します。また、お客様のご要望のように当社が開発してきた薄型のアクチュエータを使ったとしても、タイヤと直結する機構のため、薄型とはいえアクチュエータの厚さの分だけ外に飛び出してしまいます。さらに台車には、モータを動かすバッテリーや制御回路も搭載する必要があり、従来の構造では台車のサイズが大きくなってしまうという問題がありました。

「これまで当社では内歯車を固定し、遊星歯車から出力を得る減速機が通常でした。しかしこれを反対にし、内歯車から出力を取り出す遊星減速機を作ることも可能なはず。これは減速機をさらに薄型にするための逆転の発想でした」。遊星歯車に連結する回転軸をホイールシャフトに接続し回転させるのでなく、減速機の外側に位置する内歯車をホイールのリムの内側に接着することでホイールを回転させる、という考え方です。この設計が実現できれば画期的です。

減速機をさらに薄くできれば、台車の下部にバッテリーや制御回路を搭載するスペースも確保できるので、従来よりもシンプルでスリムなアシスト付き台車ができるイメージもありました。小回りがきいて安全性も高い台車は多くの作業者の助けになります。このインホイールモータはそのための重要なパーツとなることでしょう。

台車底面のホイールユニットの間にバッテリーなどが搭載可能

そう思い至りチャレンジした結果が、このインホイールモータです。

各部署のノウハウを結集して生まれた技術

しかし、その逆転の発想にもハードルがありました。減速機の外側を回転させると回転部が大きくなります。大きな回転部は動きが鈍くなり回転効率が下がることが考えられます。そもそも、そのような構造の設計は初めての試みで、正しく動くのか、強度は問題がないか、材質や熱処理の方法、歯車の精度をどのようにするかなど乗り越えるべき多くの壁がありました。当社はそれら一つひとつをクリアして開発を着実に進めていきました。

まず3Dプリンタを使い、動きを確認するための試作品製作から始めます。これにより外側回転を採用した構造自体に問題がないことが確かめられました。しかし、まだこれはコンセプトの検証段階です。ここからブラシレスモータと減速機をインホイールモータ向けにユニット化し、さらに社内のモータと減速機の各開発部署間で連携して、技術的なノウハウと強度、運動効率、精度などの性能分析を共有することで、アイデアを形にしていきました。

こうして完成したインホイールモータは、当社の減速機、制御回路、そしてモータの各開発チームが部門や分野の垣根を越えて、経験やノウハウ、自らの熱意を集結した結果、生むことができた技術の結晶と言えるでしょう。

インホイールモータの将来的な有効性

今後さまざまな用途で、インホイールモータが活用されるのではと期待されます。特に小型軽量のサービスロボットや小型搬送装置などの足回りには、最適なパーツと言えます。またこのインホイールモータを組み込んで製作するホイールユニットに、各種の通信方式に対応したインターフェースボードが搭載されるとどのような可能性が広がるでしょうか。このインターフェースボードに耐荷重、移動速度、動作範囲や行動パターンなどを組み込むことで、自動制御できるサービスロボットなどを駆動することができるのではと考えます。

倉庫の小型搬送装置にホイールユニットが活躍

これは例えば「人間とコミュニケーションしながら活動するロボットを作りたいが、ロボットの足回りまでは自社で開発することは難しい」という悩みを抱えるスタートアップ企業や研究機関にとって、革新的な自律制御技術となるでしょう。

さらには、自分自身の位置を把握する機能、障害物を検知する機能、空間を把握する機能などを強化することで、このホイールユニットは未来の移動手段を開発するお客様にとって、必須のコンポーネント技術となり得ると考えています。