差動減速機の自社開発で薄型化に成功 - パワーアシストスーツ用アクチュエータ

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モータメーカーが開発する減速機とは

「ウチが開発したアクチュエータより、小さなものは見たことがなかったです」。開発技術本部副本部長の臼井弘明が、パワーアシストスーツ向けアクチュエータを見ながら述懐します。
差動減速機の開発と新型モータとの組み合わせ、さらなる軽量薄型化へ向けたチューニング、量産化など、数々のハードルを乗り越え、画期的な軽さと薄さを持つアクチュエータを誕生させました。

物流や製造、農業や介護の現場などで近年導入が進むパワーアシストスーツ。既存モデルの重量は平均して5.0kg前後です。この重さは長時間の作業において身体的負荷が高く、改善すべき点の一つとして、各開発元は日々軽量化を試みています。

パワーアシストスーツの核となるパーツは、減速機とモータからなる出力50Wのアクチュエータ。私たちは、このアクチュエータの新規開発を2015年から行っています。

薄型のモータと薄型の減速機を別々に購入しても、パワーアシストスーツにふさわしい厚さのアクチュエータは完成しません。そう思っていた私たちは、自社でモータと減速機の両方を開発し、アクチュエータを完成させる、という方向性で開発を進めてきました。

開発着手当時、ASPINAでは、遊星減速機付きのモータは10年以上にわたり数多く開発・量産しており、経験が豊富でした。しかし、パワーアシストスーツに必要な出力と大きさに合ったものは、2015年当時は持っていませんでした。また、遊星減速機では大きな減速比を得るため多段で組み合わせる必要があり、「歯車を薄くして薄型化しても、強度に限界があった」と臼井は振り返ります。

そこで、一段で大きな減速比が得られる差動減速機(トロコイド減速機)に着目しました。当時、市場には大型のものしかありませんでしたが、ASPINAは2000年頃に差動減速機の開発に取り組んだことがあり、試作も行っていました。一定の知見・ノウハウにより、開発が比較的早く進められると判断し、2015年に社内で開発を進めることになりました。

遊星減速機(左)と差動減速機(左)では薄さが大きく異なる

解析技術は既にありました。例えばトロコイドギヤの開発では、歯車等の応力分布図(強度、剛性の計算、評価)を求めるなどの方法により、その強度、剛性を設計初期段階で評価しました。

また、このような薄型軽量の差動減速機を量産するための方法が、世の中にありませんでした。一定の量をリーズナブルな価格で提供し続けるためには、特注品ではなく量産可能な製品である必要があります。そこで私たちは、数値シミュレーションや試作を繰り返し、歯車の歯形が1ミクロンオーダーの精度で製作できる量産設計を行いました。また、歯車はかみ合い位置に加わる大きな力に耐える素材を選定。このように量産できる生産技術についても確立できました。

モータと組み合わせ、さらに薄く

減速機を薄型化するだけでは、目標とするサイズのアクチュエータにはなりません。私たちは、同等の出力を維持しつつモータを薄型化するため、分割鉄芯技術の開発に着手しました。

そしてさらに薄くするため、減速機とモータとで部品や空間を共有できるものは共有する形で減速機とモータを配置。モータの精密な制御に欠かせないエンコーダは、モータと別のケースに配置することが一般的ですが、アクチュエータ薄型化のため、エンコーダモジュールを構造的空間に3次元構造で配置しました。エンコーダモジュール内蔵でも厚みが増えない、画期的な発想のアクチュエータです。

このようにして減速機とモータ、エンコーダモジュールが複雑に嵌め合わされる形状にし、さらに薄型化することに成功。これにより、差動減速機を採用する前のアクチュエータから、大幅な薄型化と軽量化が実現しました。開発開始からわずか3年足らずのことです。

現在市販している薄型アクチュエータ

特注品として樹脂を多用したアクチュエータは、重量が250gに。62%も減少しました。現在市販しているアクチュエータは、外径77mm、厚さ約46mmと、パワーアシストスーツ使用者の装着感が快適なサイズにまで小さくすることができました。

  • CBA-50FFF-T49の場合

「顧客のために成功させる」開発体制

私たちは、パワーアシストスーツを開発する企業・大学に足しげく通い、顧客・市場のニーズがどこにあるのか正しく理解しようとしました。その結果、既存のモータと減速機の組み合わせによるアクチュエータは装着感が悪いため、それを解決することが顧客価値につながることを突き止めました。

そこで、モータのみならず減速機も新しく開発することにし、実用にたえるレベルのサイズ・重量になるまでアクチュエータの試作を重ねました。おかげで最終的に完成させた試作品を、とある企業の担当者に見てもらったとき「こんなに薄くなるの?懸念していた音や振動も問題ないレベルだね。これなら使えるのではないかな」と高い評価をいただくことができたのです。

「真に顧客・市場が必要とする薄型軽量アクチュエータ開発をいち早く成功させる」という同じ方向を向いていたこと。そして、モータ開発者と減速機開発者が一緒になって新しいアイデアや意見を出し合い、スピーディに開発を進めていったことが、開発の成功につながった要因だといえます。

このアクチュエータ技術開発の適用可能性

人をアシストするための機器、パワーアシストスーツだけではなく、アシスト台車やサービスロボット、AGV(無人搬送車)の開発が全世界で進んでいます。パワーアシストスーツ向けアクチュエータ用に開発したこれらの軽量薄型技術は、こうした関連分野の機器への活用も期待できます。

ASPINAでアクチュエータに駆動回路や通信技術を合わせて開発し、一体化した製品として提供できれば、お客様は自らのアシスト機器の開発とマーケティングに専念でき、より大きな市場機会を獲得できるはずです。

アシスト機器の革新をさらに進め、運搬や移動を画期的に楽にする。そのような世界は、もうそこまで来ています。ASPINAの技術は、その実現に欠かせないものと考えます。