IEC 60601-1を踏まえた医療機器向けモータ選定ガイド
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医療・福祉
2026年2月24日
医療機器は、患者や医療従事者の安全を確保するため、設計段階から厳格な安全基準を満たす必要があります。特に、工学技術を用いて動作する医用電気機器では、国際規格 IEC 60601-1が安全性の基盤となります。本記事では、まずIEC 60601-1の規格の概要を紹介し、この規格の観点から、医療機器に使用するモータを選定する際に押さえておくべきポイントを解説します。
IEC 60601とは?
IEC 60601-1は、IEC(International Electrotechnical Commission 国際電気標準会議)が定めた国際規格の1つであり、医用電気機器の設計や安全性に関する基本的な要求事項を定めています。
AV機器および情報通信機器の安全性に関する国際規格にはIEC 62368-1がありますが、医療機器は人の命や健康に関わるため、IEC 60601-1によってより厳しい安全基準が要求されています。また医用電気機器の安全・性能規格であるIEC 60601-1では、リスクマネジメントによる調査を行った上で、保護レベル、基本性能、表示内容などを明確にすることが必要です。この点がIEC 62368-1と異なります。
IEC 60601規格群は、通則であるIEC 60601-1が基盤となり、その内容を補足する形で副通則と呼ばれる規格が定められています。
副通則には共通の特性や機能に関する要求事項がまとめられており、例えば次のようなものがあります。
- IEC 60601-1-2:EMC(電磁両立性)規格
- IEC 60601-1-6:ユーザビリティエンジニアリング規格
- IEC 60601-1-8:アラームシステム規格
これらは通則の内容を補足し、医用電気機器に共通する要件を体系的に規定したものです。
また医用電気機器によっては、通則・副通則の内容をベースとしつつ要求事項を追加・変更・削除して、機器固有の安全・性能規格を定めている個別規格があります。例えば補聴器では個別規格のJIS T 0601-2-66(IEC 60601-2-66)が存在し、当社のポケット型補聴器もこの個別規格に準拠しています。
IEC 60601-1規格群の番号体系における、通則・副通則の表記構造
IEC 60601-1で求められる、医用電気機器の性能・安全
医用電気機器の性能・安全を維持するためにIEC 60601-1で定められている内容の主なポイントは、次の通りです。
- 電気的ハザードに対する保護
- 機械的ハザードに対する保護
- 温度ハザードに対する保護
- EMC(電磁両立性)
- 基本性能の維持
電気的ハザードに対する保護
感電によるハザードに対する保護を意味します。
IEC 60601-1の特徴は、操作者だけでなく患者が機器に触れることを前提としている点であり、これは他産業の規格とは大きく異なります。操作者と患者では求められる保護手段のレベルが異なり、絶縁強度・沿面距離・空間距離などについて厳格な基準があります。
特に患者は、操作者よりもより長い時間、かつ広い面積で医用電気機器に接触する可能性があるため、患者に対する保護はより厳しい要求となっています。
機械的ハザードに対する保護
可動部による挟み込み、損傷などの危害の防止、表面の角・縁による危害の防止、機器の姿勢・移動時の安定性(転倒防止)、落下・振動・衝撃などによる危険防止など、機械的なハザードに対する保護です。
温度ハザードに対する保護
過度な表面温度上昇の防止、火災の防止(難燃性の確保)など、温度に関わるハザードに対する保護です。
EMC(電磁両立性)
EMC(電磁両立性)には、自身が放出する電磁波(ノイズ)の規制(EMI)と、周りから受ける電磁波(ノイズ)に対する耐性(EMS)とがあり、いずれも機器が自身および周辺機器に影響を与えない状態を確保することを指します。このEMCの要求を定めているのが副通則であるIEC 60601-1-2です。医用電気機器の場合、医療施設で使用することや誤動作などに対するリスクが大きいことなどから、AV機器および情報通信機器の安全規格であるIEC 62368-1のEMC要求よりも、EMIの電磁放射妨害の限度値、およびEMSの静電気耐性などの基準がより厳しく設定されています。
医用電気機器のEMC要素(EMSとEMI)を視覚的に整理した概念図
基本性能の維持
IEC 60601-1では、落下・衝撃、電磁波、熱などの外的要因が発生しても、医用電気機器の基本性能の維持および安全性を維持することが求められます。
この基本性能とは、AV機器および情報通信機器の安全規格であるIEC 62368-1にはない考え方です。
基本性能はリスクマネジメントによる調査を通じてその機器が本来果たすべき機能として特定されます。例えば、患者監視アラーム機能、患者検査機能、薬品投与機能などが基本性能に位置づけられる場合があります。
ASPINAが提案するモータ選定のポイント
IEC 60601-1ではモータ単体の仕様を定めていませんが、電気的ハザードに対する保護、温度ハザードに対する保護、EMC対策の観点から、医療機器に組み込むモータを選定するにあたりいくつかのポイントがあります。
電気的ハザードの保護
モータ自体には医用電気機器全体の漏れ電流を直接防止する機能はありません。しかし、モータの駆動電圧を低くするなど適切に選定することで、要求される絶縁レベルを下げられ絶縁構造を簡素化できる場合があります。その結果、IEC 60601‑1 の要求を満たしながら、医療機器全体の小型化やコスト効率の向上に寄与する可能性があります。
温度ハザードの保護
モータは医用電気機器の主な発熱源になります。発熱を抑えるためには、必要な出力を満たしつつ高効率に駆動するモータを選定する必要があります。効率に影響する要因は複数ありますが、主にモータの種類や、駆動電圧、巻き線仕様、マグネットの強さなどが挙げられます。この部分は、モータの設計段階からの工夫が必要になります。使用点に合わせて最適なモータ仕様にカスタムすることもご検討ください。
EMC設計への配慮
IEC 60601‑1‑2 のEMC(電磁両立性)規格では、放射・伝導エミッション要件が定められており、特に家庭環境を対象とする Home Healthcare(IEC 60601‑1‑11 併用)では、より厳しい EMC 対策が求められます。
モータおよび駆動回路は、高調波・コモンモードノイズの発生源となりやすく、フィルタ、シールド、グラウンド設計など EMC 対策が複雑になりがちです。モータの種類や駆動回路の方式で発生するノイズに影響があるため、選定にあたり注意が必要です。
まとめ
医療機器に求められる安全性は、患者と操作者の命を守るために極めて高い水準が求められます。IEC 60601-1では、各ハザードに対して厳格な保護要件が定められており、絶縁、漏れ電流、接地など多岐にわたる対策が必要です。
医療機器に組み込まれるモータを選定する際も同様に、電気的ハザードに対する保護、温度ハザードに対する保護、EMC対策の観点から、考慮すべき点があります。
当社は1962年より精密モータ事業を営んでおり、お客様のご希望に沿ったモータの選定やカスタム対応に真摯に対応いたします。
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