静かで快適な乗り心地を提供する革新的なケーシング構造 – シートベンチレーションブロワ
-
車載
-
車載シートベンチレーションシステム

シートベンチレーションシステムの最新トレンドに適応したブロワ
「シートベンチレーションシステムに最適なブロワとは何か?」という問いから、ASPINAのCM-BU(カーメカトロニクスビジネスユニット)は新製品の開発に着手しました。
2018年頃までの車載シート空調システムの多くは、ブロワの先端にペルチェ素子による温度制御機構を取り付け、シート表面から温風や冷風を吹き出すものが主流でした。当初は高級車への搭載が中心でしたが、徐々に中級車にも搭載が進みコスト競争が激化しました。また同じ頃、EV化によって消費電力を抑える必要性が高まりました。こうした変化を受けて、シート表面から温風を吹き出す方式は電熱線で座面を温めるシートヒーターに置き換わり、また冷風を吹き出すのではなく、エアコンの冷気を取り込んで換気するベンチレーション方式が普及しました。
座面から空気を吸い込むためには、シートの通風抵抗に勝る静圧が必要です。特に人が座ると通風抵抗が大きくなるため、静圧の低いブロワでは空気を吸引できず、シートエアコンとして機能しません。また自動車業界全体のトレンドとして、乗員の快適性向上のために静音化が不可欠になってきています。一方で、シートの多機能化・薄型化に伴い、ブロワの搭載スペースは限られています。つまり、風量を確保しつつ、より静かで小型・薄型なブロワが求められているのです。
従来のシートベンチレーションブロワは、ASPINA製も含めシングルアウトレット型が主流でした。しかしある日、当社の従来モデルをシートに組み付けて評価していた際、CM-BUの開発責任者は小さな異音に気が付きました。製品として問題のないレベルではあったものの、「もっといいものができるのではないか」と考えました。そこで、研究開発チームは流量を確保しつつさらなる静音・小型・薄型化を目指して、新型ブロワの開発を始めました。
背面吹き出し構造とディフューザーにより、低騒音・小型・薄型・高静圧を実現
開発チームが生み出したのは、ケーシングの背面から排気することで騒音を低減し、さらにディフューザーを追加することで静圧を高めたブロワです。
ASPINAの背面吹き出し型ブロワはケーシングの背面から排気します
従来品を検証したところ、ブロワによる最大の騒音は吹き出し口から発生する風切り音であることが分かりました。この風切り音を低減しつつ、製品を薄くコンパクトにするために導き出したケーシングの最適解は、空気を背面から吹き出すという独自形状です。この背面吹き出し型ブロワは、従来のシングルアウトレット型と比べると乗員なしで7dB、乗員ありで9dBの騒音低減を達成しました。
ASPINAの背面吹き出し型ブロワと従来型ブロワの騒音比較
ところが、この背面吹き出し構造は騒音低減には有効な一方で、従来のシロッコファン+シングルアウトレット型ブロワと比べてP-Q特性で劣ります。上述の通り静圧はシート表皮から空気を吸引するために不可欠な要素です。そこで開発チームは静圧を高めるための改良を行うことにしました。
ベルヌーイの定理によれば、流体のエネルギーは「速度」「圧力」「高さ」で表すことができ、これらの和は一定になります。つまり、空気の速度を落とせば圧力を高めることが可能です。この原理をもとにケーシングにディフューザーを追加し、空気の流速を落として静圧へと変換することで、シートベンチレーションに理想的なP-Q特性へと近づけることができました。
ディフューザーのあるブロワとないブロワのP-Q特性
開発チームの市場理解と試行錯誤により「静音・小型・薄型」と「高出力」を両立
このブロワの開発では、静音・小型・薄型化を実現すると同時に風量を維持することが最大の課題でした。一般的に騒音とサイズはトレードオフの関係にあり、両立が難しいです。一方、今後さらなる普及が見込まれるEVは車両下部に多数のバッテリーを搭載するため、座席下の空間が狭くなる傾向にあります。また、乗員の快適性を高めるためにシートの多機能化が進んだことで、内部構造が複雑化し、シート内のスペースはやはり限られています。ASPINAの開発チームは、ブロワの小型・薄型化は自動車OEMやTier1企業にとって不可欠であると考えました。
この難題を解決するため、開発チームは市場にある様々なファンとブロワの構造を研究し、ヒントを探りました。例えば、主流であるシングルアウトレット型は送風口の面積が大きく静音化しやすい一方で、ブロワ自体をコンパクトにすることが困難です。デュアルアウトレット型は排気方向に制限があり、またダクトを取り付けると構造が複雑になってしまうため、内部スペースに制約のあるシートには不向きでした。
シングルアウトレットブロワ(左)とデュアルアウトレットブロワ(右)の正面図
開発チームは様々な設計パラメータを徹底的に検討し、背面吹き出し構造による静音化、ディフューザーによる昇圧、薄型でコンパクトなケーシング設計、これらすべてを1つの製品で実現しました。結果として、この背面吹き出し型ブロワは静圧を維持したまま、従来のシングルアウトレット型製品と比べて15mmの小型化を達成しています。
ASPINAの背面吹き出し型及び従来型ブロワのサイズ比較
成長し続けるEV市場でキャビンの快適性向上に貢献するASPINAの背面吹き出し型ブロワ
ASPINAのシートベンチレーションブロワは薄型・コンパクトでありながら、当社の従来品と比べて低騒音で、市場にある同サイズのブロワではトップクラスの静音性を誇ります。スペースが限られたシートにも搭載でき、乗員に静かで快適な車内空間と優れたシート冷却性能を提供します。さらに、ブロワのケーシングは樹脂成形で作られることが多く、背面吹き出し構造は剛性確保、金型効率、そしてコスト面においても優れています。
今後EVの販売台数はさらに伸びることが見込まれています。ガソリン車と比べてEVはモータ駆動のため静かで、車内の静音性への要求は一層高まることが予想されます。ASPINAの革新的なブロワはこのトレンドに合致しており、車内の快適性技術の最先端を行く製品です。需要に応えるため、ASPINAは増産の体制を整えています。
関連情報
Exhibition information
-
2025年6月17日
-
2025年6月12日