制約を超えた高速回転で新しい価値を - ステッピングモータ

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製造ラインのさらなる生産性向上に貢献するステッピングモータ

「製造業における生産性向上のポイントはなにか?」
その質問にはさまざまな答えが考えられますが、その1つに「タクトタイムの短縮」があるのではないでしょうか。タクトタイムとは、1つの製品を製造するため必要な時間です。タクトタイムが短縮できれば同じ時間でより多くの製品が製造でき、業務効率の向上にも繋がります。

ASPINAでは、お客様の「タクトタイムを短縮して生産性を向上させたい」という課題の解決を、モータの性能を向上させることで支援したいと考えました。

半導体製造装置などに組み込まれるモータとしては、エンコーダを利用したクローズドループによって位置制御を行うサーボモータが主流です。一方で、エンコーダを利用しないオープンループによって位置制御を行うステッピングモータは、サーボモータよりも小型で高効率、低振動という長所があるのですが、停止精度が低くて高速回転での運用が苦手という弱点があります。

そこで、ステッピングモータの長所を生かしながら、サーボモータのような停止精度と高速回転が可能なモータが開発できれば、製造工程自体をより効果的に高速化でき、お客様の業務効率向上にも貢献できるでしょう。

このような背景から、ASPINAではエンコーダによるクローズドループでの駆動と独自のソフトウェア制御によって、ステッピングモータが持つ長所を生かしながら、停止精度が高く高速回転も可能なステッピングモータを開発しました。

「弱め界磁」に独自の電流ベクトル制御を加え高速回転を実現

ステッピングモータの停止精度向上は、サーボモータのようにエンコーダを利用したクローズドロープでの制御を採用することで実現可能でした。一方で、ステッピングモータの高速回転を実現させるには、新たな電流制御手法の開発が必要になりました。

ステッピングモータがサーボモータと比べて高速回転が苦手な原因は、その動作の仕組みにあります。

そもそも、電流を流して磁界を発生させ、磁力の力を使って軸を回転させるモータの構造は、逆に軸を回転させて電気を作リ出す発電機と同じです。したがって、モータは軸を回転させることで、新たに電力(逆起電力)を発生しています。モータの回転が高速になり逆起電力が大きくなってくると、モータの駆動電圧と発電によって生じた電圧(逆起電圧)が釣り合ってしまい、ある時点からそれ以上回転数が上がりません。

ステッピングモータは電流を制御して軸の回転を細かいステップ動作に変換するため、サーボモータと比べて内部の磁極が多数あります。それによって、逆起電力が大きくなりやすく、高速回転が困難です。

そこで、ASPINAでは「弱め界磁」という手法を用いることにしました。具体的にはまず、電流の成分をトルク(q軸)と界磁(d軸)の2つに分け、それぞれ独立して制御を行う電流ベクトル制御を行います。そして、モータの回転が上がるにつれて上昇する逆起電圧が駆動電圧と釣り合う前に、界磁成分の電流だけを弱めて、逆起電力を下げるのです。

ただし、「弱め界磁」は的確に制御しないと逆にモータの効率が低下するだけでなく、モータの速度が加速度的に高まり暴走状態となります。それらを防ぐため、「弱め界磁」の計算にトルク成分の制御を加味した、独自の電流ベクトル制御の計算方法を考案しました。

従来品に比べ高速域でも回転

こうして、エンコーダを利用したクローズドループで停止精度が高く、逆起電圧がモータの駆動電圧を大幅に上回る領域まで高速に回転できる、ASPINA独自のステッピングモータを実現させたのです。

お客様のニーズを幅広くカバーする製品の完成度を高める

モータに印加される負荷の状況や回転速度の範囲がお客様の用途やニーズによってさまざまですので、製品化においては、それらの用途やニーズを広くカバーするアルゴリズムの構築やソフトウェアの開発が必要でした。

ASPINAでは、お客様がステッピングモータを使用する機器を模擬した数々の負荷治具を制作し、種々の慣性モーメントや摩擦負荷を変化させる膨大な動作試験を通じて要素技術を磨き、製品の完成度を高めました。

また、実際にモータを使用されるお客様とASPINAの技術者が集い、実験や検証を行い、その結果に高いご評価をいただきました。
要素技術開発、製品機能開発、性能評価などの様々な要素についてエンジニアがそれぞれの知見と技術を持ち寄り、製品開発にあたっています。

CSB-BZ サーボドライバ

小電力・高速・高精度な位置制御を求める、より多くのお客様に

今回開発したステッピングモータを採用すれば、高速回転を可能にしながらも正確な位置制御が可能になり、製造工程の無駄を省いたタクトタイム短縮に大いに貢献できるでしょう。

本来、ステッピングモータは少ない電力でサーボモータと同等のトルクが出せます。また、ステッピングモータでは磁極が細かいことから位置の安定点が多いので、小型(省スペース)・高効率(省電力)・低振動という特徴を生かし、製造装置だけでなく、従来採用されてこなかった製品にも使用できます。例えば、カメラの駆動に使用した場合には画像のブレが軽減し、軽容量搬送では搬送物へ与える振動の影響が軽減できます。

今後ASPINAでは、ステッピングモータにドライバ、コントローラの配線や回路を取り込んだ、一体型製品の開発などにも取り組んでいきたいと考えています。